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東京から創るサステナブルファイナンス戦略を世界へ

東京から創るサステナブルファイナンス戦略を世界へ

FinCity.Tokyoは、2025年10月に「Tokyo Sustainable Finance Forum」を開催しました。フォーラムでは、「日本のサステナブルファイナンス戦略を世界へ」をテーマに、行政、金融、経済界のリーダーをお招きし、日本が主導する持続可能な金融システムの構築に向けて必要な取り組みなどについて、ご議論いただきました。

地球温暖化、災害の激甚化、エネルギー問題など、環境問題は私たちの生活の中で避けて通れない問題です。環境への負荷が小さい経済活動を推進するために、世界的にESG投資を推進する動きがあります。日本においても、政府は「GX戦略」と銘打ち、温室効果ガス排出削減と経済成長の両立を図っています。

今回は、フォーラムの基調対談にご登壇いただいたモルガン・スタンレーMUFG証券株式会社のシニア・アドバイザーであるロバート・アラン・フェルドマン氏をお招きし、日本がエコロジーとエコノミーを両立するために行うべき取り組みについて、お話をうかがいました。

ロバート・アラン・フェルドマン氏

モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社シニア・アドバイザー

1998年、チーフエコノミストとしてモルガン・スタンレー証券会社(現:モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社)に入社、2017年よりシニア・アドバイザー。2017-2022年、東京理科大学大学院経営学研究科技術経営専攻(MOT)にて教鞭、現在は上席特任教授。日米友好基金の審議員やオリックスの社外取締役を歴任。2000-2020年、テレビ東京系列の「ワールドビジネスサテライト」のコメンテーターを務める。マサチューセッツ工科大学で経済学博士号、イエール大学で経済学/日本研究の学士号を取得。1970年、米国からAFS交換留学生として初来日、1年間名古屋の南山高校で過ごした。

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2015年に国連でSDGsが提唱されたのを機に、ESG投資が投資家をはじめあらゆる人々の間に浸透することになりました。一方で、近年ではESGファンドからの資金流出額が過去最大を記録するなど、ESGに対する「逆風」の傾向も見られます。このような状況下において、あらためてESG投資に関するご見解を教えてください

フェルドマン氏:まず前提として、確かに「ESGはもう後回しで良い」「温暖化対策は二の次で良い」という風潮はありますが、これは明確な間違いです。そのようなことを言ったところでCO2が減ることはなく、また巨大な嵐や雪崩といった災害がなくなることもありません。
やはり環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の3つが整っている状態が不可欠です。
環境(Environment)問題を放置すると、例えば豪雨や台風によって農作物が収穫できなくなったり、海水温が上昇して従来の漁場で魚が獲れなくなったりします。
また、社会(Social)については、米国や欧州では、社会に対する失望から生じた政治不信やメディア不信に陥っています。日本でも同様の傾向が見られるといえるでしょう。従来の政党がこの問題に取り組めていないことも、より問題を深刻化させています。
ガバナンス(Governance)については、「資本の使い方を良くしよう」という点がポイントです。競争によって資本の使い方は最適化されるはずですが、その中に様々な既得権益が入り込み、自己利益を追求する団体やロビイストなどが多数存在する現状では、健全な資本主義だとはとても思えません。ガバナンスがより強固になれば、資本の使い方も改善されるのではないかと思います。
こうした観点からも、経済成長や脱炭素、エネルギー安全保障を柱とする日本のGX(グリーントランスフォーメーション)戦略の必要性はますます高まっていると考えています。
先日のイベントで、木原誠二先生(現:衆議院議員)と対談させていただいた際、「ぶれずにGX戦略を進めていく」という言葉をいただき、大変うれしく思いました。

ESG投資を実行するにあたり、多額の資金が必要になってくると思います。これについてのご見解を教えてください

フェルドマン氏:政府は「GX移行債」を発行するとのことですが、アイデア自体は非常に良いと思います。ただ、金額や発行規模を考えると、少し違和感があります。例えば、電力をクリーンにする、あるいはゼロエミッションを実現するためには、かなりの施設を作り直さなければなりません。電力網を作り直す必要もあります。これには膨大な資金が必要です。
そういった大掛かりなことをするよりも、科学技術の進歩を後押しし、クリーンエネルギーをより低コストで実現できるようにするほうが、現実的なアプローチではないかと思います。

フェルドマン氏へのインタビュー風景

 

クリーンエネルギーには、「水素」なども含まれるでしょうか?

フェルドマン氏:水素も含まれます。ただ、他のエネルギーに比べてコストが割高です。また、輸送が難しいという点もネックになります。
そうなると、「エネルギー生産のコストを下げる」、「エネルギーをその場で作ってその場で利用する」ということが必要になります。そのための研究開発において、日本の科学技術には大きな役割があると思いますので、その分野に資金を投下するべきです。

再生可能エネルギーの活用

科学技術のお話が出ましたが、近年、生成AIの発展によって電力需要が増大すると見られており、その電力をどのように賄っていくかが課題となっています。一方、ESGの観点にも配慮が必要であることから、風力、太陽光、地熱などの再生可能エネルギーが注目を集めています。再生可能エネルギー発電の割合を増やすために技術開発を進めることは、現実的な方策と言えるでしょうか。

フェルドマン氏:むしろ、再生可能エネルギーを開発しないことのほうが非現実的です。
なぜかというと、再生可能エネルギーを活用せずに、石炭などのCO2排出量の多いエネルギーを使うとすると、その燃料をどこで探すのかという問題に直面するからです。見つかるまでに時間がかかりますし、価格も高騰します。これは経済成長にとって大きな制約要因になります。その間に環境もますます悪化していきます。
再生可能エネルギーの開発を進めざるを得ないのです。もちろん、研究開発を進めてコストを下げることは必要ですが。

近年では、メガソーラーに付随する環境破壊が注目されるようになったのを機に、再生可能エネルギーに懐疑的な見方もあるように感じますが、ご見解をお願いします

フェルドマン氏:たしかに、太陽光発電の少し悪い面が露呈してきています。ただ、太陽光発電そのものが悪いのではなく、技術の使い方が問題なのだと思います。
例えば、日本の技術である「ペロブスカイト」など、良い技術がたくさん生み出されています。これを大きなビルの窓などに安価に大量に貼ることができれば、太陽光発電の普及形態がまったく違う形になるでしょう。

太陽光発電以外にも、注目している再生可能エネルギーはありますか?

フェルドマン氏:最近、欧米でまた人気になってきた「地熱発電」です。たとえば、フィンランドには、地下6㎞まで掘削した地熱発電所があります。また、中国では地下10㎞まで掘るプロジェクトを進めています。日本の温泉が地下数百メートルのところから出ていることを考えると、相当深いところまで掘っていることが分かるでしょう。米国でも、AIの普及に伴う電力需要を賄うため、地熱発電を推進する動きが見られます。
新たな掘削技術も開発されていますので、日本でも地熱発電を選択肢に入れることは可能ではないでしょうか。

フェルドマン氏へのインタビュー風景

 

再生可能エネルギーではありませんが、CO2を排出しないことから「原発を推進したほうがいい」という声もあります。この点に関する見解を教えてください

フェルドマン氏:原発だけで対策するのは非現実的であることを知っていただきたいです。原発1基を1年間稼働した場合、石炭火力発電と比べて200万トンのCO2を減らすことができます。
一方、経済産業省が出したエネルギー計画では、2031年から2035年の間、毎年3,300万トンのCO2を減らすこととされています。つまり、この計画を実現するためには、毎年1516基の原発を新たに建設しなければならないことになりますが、これは非現実的と言わざるをえません。
したがって、CO2の排出を減らすという観点においては、先ほど申し上げた太陽光発電や地熱発電などの技術開発を進めること、新たな発電技術を開発することのほうが重要であると考えています。

さまざまな技術を探していくほうが、問題解決への近道になるということですね

フェルドマン氏:消費するエネルギー量を抑える技術も大切です。
当社は10年前に今の建物に移転してきたのですが、今の建物で利用しているエネルギー量は、以前の建物と比較して3分の1程度にまで減少したと、ビルの担当者から聞きました。

大幅に抑えられていますね

フェルドマン氏:今も数多くのビルが建設されていますが、そちらはもっと性能が良いでしょうね。「ゼロエミッションビルディング」というものがありますが、建築基準を見直し、新たな低エネルギー技術の導入を促すようなルールが、たとえば、新たにビルを建てる際は新たな低エネルギー技術を採用した建具を用いなければならないといったルールができれば効果的だと思います。

投資枠組みと市場構造の改革

GX投資を推進するにあたり、2023年度に「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定され、以後10年間で150兆円の投資を行う枠組みが設定されました。このことに関して見解を教えてください

フェルドマン氏:10年間で150兆円ですから、1年間では15兆円の投資となるわけですが、技術開発やリターンを生み出すためには、ある程度時間がかかるだろうと思います。12年程度の短期的な効果はあまりないでしょう。
また、1年あたり15兆円という資金を具体的にどのような分野にどれだけ配分するかは、現時点では明らかになっていません。政府が策定する成長戦略の内容が明示された段階で評価すべきだと思います。
たとえば、「フュージョン(核融合)」技術は実用化まであと15年はかかるだろうと思います。こうした中長期的な取組への投資も行うべきですが、より短期的に実用化を図るのであれば、先ほど申し上げたような太陽光、地熱、あるいは風力に関する技術開発を進めるほうがいいのかなと思います。また、節電、断熱などの省エネ技術の開発もよいと思います。

GXに取り組むにあたり、政府は技術革新に対するインセンティブとして、補助金の支給も実施していますが、こちらに対する見解も教えてください

フェルドマン氏:GXのような大規模な投資が必要なプロジェクトにおいては、民間企業だけではリスクを取れないので、補助金などのインセンティブが絶対に必要です。一方で、もう一つ重要なポイントは「誰もが参入可能な市場を作ること」です。
例えば、自分の家の屋根の上にソーラーパネルを付けたとします。そこで発電した電気を新興の小規模な電力会社に売ろうとするときに、いろいろな手続きが煩雑であったり、そもそも利用者が新興の電力会社を使うのを躊躇したり、といった事情があります。そうなると、新しい技術の普及にはつながりません。既得権益者がいるなかでは、小さな事業者が入ろうとしても排除されてしまうのです。
したがって、技術革新だけでなく、市場構造の関係も考えるべきです。
たとえ新しい技術が開発され、これを普及させようとしても、古い市場ルールのままで進めると「この技術は使えない」、「自分たちの立場がなくなるから使わせたくない」という人たちも絶対にいますから、そういった人たちをどうやって説得していくかが問題ですね。

フェルドマン氏へのインタビュー風景

 

既得権益はどの分野・業界にも絡んでくるように思うのですが、当事者の方を説得するには時間がかかりそうです。

フェルドマン氏:カギとなるのは「市民の力」、「消費者の力」です。
例えば、北九州市ではかつて深刻な大気汚染問題に悩まされていました。この状況を打開するために、市民運動が立ち上がり、行政や企業に公害対策の強化を促す大きな力となりました。市民・消費者と行政・企業が敵対するのではなく、協力して問題を解決したのです。
技術革新や新たな事業者の参入が、業界全体のメリットにもなることを、市民、消費者が示すことで、既得権益をもった人たちを説得していくことがポイントです。

日本のグローバルな役割と国際連携

新技術の開発・推進となりますと、諸外国との関係性も重要になってくると思います。日本はアジアで唯一G7に属していることから、ASEAN新興国をはじめアジアの国々との橋渡し的な役割を担えると考えられます。日本がその役割を担う意義について教えてください

フェルドマン氏:日本が果たすべき役割は極めて大きいと思います。
これから世界的にエネルギー需要は大きくなっていきますので、ASEANやアフリカなどの地域で環境負荷が小さい、新しいエネルギー技術の利用を促していくことが必要です。
しかし、新技術を売る立場の国が「これは良いエネルギー技術ですよ」といったところで、信じてもらえないのは明白です。
日本は世界からの信頼度が高い国です。その立場を活かして、中立的な見地から、新技術の普及を促していくことが期待されているのではないでしょうか。

中立の立場で動くことが大事なのですね

フェルドマン氏:もう一つ重要なポイントは「自分の行動で示す」ということです。
例えば、石炭エネルギーを積極的に使っている国が「再生可能エネルギーを使いましょう」と言っても説得力はないです。
やはり日本で再生可能エネルギーの技術開発を積極的に行い、取り入れる姿勢が求められます。自分の行動で、他国に行ってほしいことを示すのです。

フェルドマン氏へのインタビュー風景

海外との関係性というと、先日のイベントでは、経済安全保障の観点で日本と中国との関係性についても言及がありました。経済的観点を中心に、今後の中国とのあるべき関係性について教えてください

フェルドマン氏:政治的な問題もありますが、むしろ「中国が育ててきた技術を日本と一緒に使いましょう」と促すべきだと思っています。科学者は「政治とは関係なく科学技術の開発を進めたい」という気持ちを持っているのではないでしょうか。そういった科学者、人材を育成していくことが重要だと思います。
「政治とは関係なく科学技術の開発を進める」、「科学者、人材を育成する」という点に関して、OIST(沖縄科学技術大学大学院)の話をさせてください
20年くらい前に構想が始まった大学院大学で、ここでは教職員の半数以上、学生の8割近くが外国人(20259月現在)です。教授や講師を務められている学者さんも実績があり、過去にノーベル賞を受賞した人もいます。
新型コロナウィルス(COVID-19)が流行した際の対策にもOISTでの研究が活かされており、例えばPCR検査や拡散を防ぐフェイスシールドなどに活用されているそうです。
外国人学生も卒業後は一定数が日本に残ると聞いています。彼らの持っている技術を日本で活かしてもらえれば、日本の科学技術の分野がより一層強くなるのではないかと希望を持てますよね。

金融ハブとしての東京

持続可能な社会をグローバルな規模で実現するためには東京、ひいては日本がアジアの金融ハブとして機能することがセンターピンだと思われます。東京、日本がそのような機能を果たすために必要なことを教えてください

フェルドマン氏:まず、金融に関する透明性を持ったルールが必要です。これを作るうえでは、金融庁の役割が大きいと思います。
また、海外の投資家が使いやすいルールも必要です。日本のルール、具体的には、日本の法律や税制は、海外の人たちにとって理解しにくいのです。したがって、海外の人材を東京、日本に呼び込むためには、法律や税制の改革が必要だと思います。あるいは、分野によって、日本国内の法律に従うのではなく、たとえば英国の法律やアメリカのデラウェア州の法律が適用されるといった柔軟な運用があってもいいのではないでしょうか。

フェルドマン氏へのインタビュー風景

 

今後、GX戦略の実現に向けては、東京、日本が再生可能エネルギーなどの技術革新を主導し、グローバルな普及を促す役割を果たすべきことについて、お話しいただきました。また、その際には市場の構造に着目し、市民・消費者との協働により既得権益を打破することが重要であること、海外の投資家に開かれたルールを持つことが重要であることが分かりました。今回はお時間をいただきまして、どうもありがとうございました。

最後までご覧いただき、ありがとうございます。
フェルドマン氏は2025年10月にFin City Tokyoが開催したイベント「アジア金融ハブ戦略と日本の未来 | 東京・サステナブル・ファイナンス・フォーラム」にて、衆議院議員の木原誠二氏と対談いただきました。対談動画はYouTubeで公開しています。こちらもぜひご覧ください。
対談動画

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