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サステナブルファイナンスの取り組みを国際的に拡大していくために~規制や枠組みのあり方、今後の展望~

サステナブルファイナンスの取り組みを国際的に拡大していくために~規制や枠組みのあり方、今後の展望~

FinCity.Tokyoは、2025年10月に「Tokyo Sustainable Finance Forum」を開催しました。フォーラムでは、「日本のサステナブルファイナンス戦略を世界へ」をテーマに、行政、金融、経済界のリーダーをお招きし、GX実現に向けた世界規模での取り組みが加速する中、脱炭素と成長の双方を実現するためには、どのような施策が必要かについてご議論いただきました。

今回は、フォーラムにパネリストとしてご登壇いただいた「脱炭素成長型経済構造移行推進機構」(以下、GX推進機構)理事の高田 英樹(たかだ ひでき)氏をお招きし、官民でGX投資を推進するお立場から、サステナブルファイナンスに関する規制や枠組みのあり方、そして世界的に取り組みを拡大させるために必要なこと、今後の展望などついてお話をうかがいました。

高田 英樹(GX推進機構 理事)

1995年に大蔵省(現:財務省)入省。大臣官房文書課広報室長や経済協力開発機構(OECD)、主計局主計官、金融庁総合政策局総合政策課長等を経て、2024年より脱炭素成長型経済構造移行推進機構(GX推進機構)の理事に就任。

サステナブルファイナンスの取り組みを巡る国際的な潮流として、米国のトランプ政権の政策なども踏まえ、「逆風」が吹いているという見方もあります。現在の状況をどのように見ていますか?

高田氏:おっしゃるとおり、気候変動対策やサステナブルファイナンスの取り組みが減速しているのでは?と懸念される方は少なくありません。

しかし、私の考えは異なります。取り組みはむしろ世界的に加速していると思います。実際に、日本では一貫して取り組みを続けていますし、欧州や米国でも、再生可能エネルギーなど必要な分野への投資を進めています。企業や金融機関はビジネスの観点から「有効である」という判断のもとで投資を行っているのであって、決してモラルの観点や政治的な観点で行っているわけでもありません。したがって、そうした投資は今後も継続すると思います。

かつての「ESGブーム」の頃は、流行に乗って「サステナブル」「SDGs」をコンセプトに取り組む企業も多かったのでしょう。しかし、近年では流行が落ち着いたことで、むしろ実務的・ビジネス的な観点から取り組む企業が選別されているように感じます。

米国の状況やトランプ政権の動向を見るにつけ、身構えていた日本の関係者も多かったと思うのですが、過度な懸念というよりは、「なすべきことをしっかりやっていくべきだ」ということですね。

高田氏:そのとおりです。しかもこの分野は、決して1年、2年先を見て行っているものではなく、10年、20年先に何が必要かという観点から投資を行っています。したがって、最近の短期的な動きに惑わされすぎる必要はないと考えています。

日本では、具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか?

高田氏:まず「グリーンボンドガイドライン」や「トランジション・ファイナンス基本指針」といった、指針の整備をしています。
また、2023年には「GX推進法」が成立し、今後10年間で20兆円規模の「GX経済移行債」の発行も決まっています。GX経済移行債の狙いは、民間のGX投資を先駆的に支援することです。

国際的な整合性を確保しつつ、地域固有のニーズに応えていくサステナブルファイナンスの規制や枠組みはどうあるべきか

サステナブルファイナンスは世界規模での取り組みとなります。しかし、実際には国や地域ごとに経済成長の段階や文化、価値観が異なるため、一律のルールで規制や枠組みを統一するのは困難だと思われます。サステナブルファイナンスを進めるにあたり、ルールの整合性や個々の事情への対応に関して、ご見解を教えてください

高田氏:サステナブルファイナンスの枠組みにおいて、ある程度世界共通の考え方や枠組みが必要であることは間違いありません。その一方で「何がサステナブルであるか」という考え方や定義は地域によって異なり得ますし、経済成長の段階や産業の特性などによっても変わってきます。地政学的な状況、地理的要因も影響します。
例えばエネルギーに関しては、日本では島国という地形もあり、自国内で賄わなければなりません。一方で、欧州は陸続きであるため、他国から電力やエネルギーを容易に輸入できます。エネルギー以外の要素でも、地域によって異なる事情や条件などを考慮する必要があります。

高田氏インタビュー風景

「サステナブル」を定義する概念として「タクソノミー」という用語があり、複数の国・地域で定めた代表的なものにはEU圏内で策定された「EUタクソノミー」があります。EUタクソノミーの長所・短所について教えてください

高田氏:大きな長所は、「明確性」や「厳密性」です。サステナブルファイナンスの対象が精緻に分類され、明確に定義されたことで、投資家にとって、どの分野や技術に投資すればよいのかが極めて明確になりました。EUタクソノミーは、欧州が世界のサステナブルファイナンス市場を牽引する上で大きな役割を果たしたと考えています。
その反面、明確かつ厳密なゆえに多様な局面に対応しきれないという短所も有しています。繰り返しになりますが、サステナブルの定義は地域によって異なります。
時勢によって変化することもあります。例えば、ロシアのウクライナ侵攻を契機として「天然ガスなどの化石燃料がまだ必要ではないか」という議論が出ています。従来はサステナブルファイナンスの対象外と見なされていた防衛産業でさえ、侵略から国家や人命を守るためには必要なのではないかという議論が最近では出てきています。
このように、変化する状況に柔軟に対応するという観点からは、タクソノミーのアプローチに一定の課題もあると考えられます。

一口に欧州と言っても、国ごとに歴史や文化、経済状況などは大きく異なるでしょうから、意見をまとめるのは難航すると考えられますね。我々、日本を含むアジアにおいても同様でしょうか。

高田氏:そうですね。アジアも国ごとに欧州諸国とは全く異なる産業構造やエネルギー構造を持っています。したがって、一律のタクソノミーをそのまま適用するのは難しい面があると考えます。

では、日本ではどのようにサステナブルファイナンスの定義、対象を決めているのか教えてください。

高田氏:日本では、プリンシプルベースで、「グリーンポンドガイドライン」や「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針」など、さまざまな政策的ガイドラインを定めてきました。サステナビリティの基本的な概念や考え方は示しつつも、タクソノミーのような細かい定義や基準は設けず、市場参加者(投資家)の創意工夫や柔軟な判断にゆだねるアプローチです。
プリンシプルベースの方が、国を超えて連携をする際に普遍性が高く、メリットがあると思います。実際、日本の特に「トランジション・ファイナンス」のアプローチは、アジアでも、あるいは欧州を含めた世界でも、現在非常に注目されています。
一方で、こうしたガイドラインに加え、産業別のロードマップも示すことで、市場参加者に対しては十分な明確性や方向性は示していると考えています。

「トランジション・ファイナンス」は日本が世界をリードすべき分野

「トランジション・ファイナンス」のお話が出ましたが、日本が取るべき規制や枠組みの在り方について、ご見解をお願いします

高田氏:日本において、トランジション・ファイナンスの基本指針が定められたのは、2021年になります。その際に、CO2排出量が多い一部の産業については、分野別にロードマップを策定しました。ロードマップは技術の進化に合わせて見直しが必要で、2025年11月にはセメント分野・自動車分野、12月には電力・ガス分野をそれぞれ更新し、他分野についても2025年度中に見直しを行う予定です。

トランジション・ファイナンスの動きは、海外ではどのような状況でしょうか?

高田氏:先ほど申し上げた日本の「分野別ロードマップ」というアプローチは、海外でも非常に注目されていて、イギリスでは2025年10月に「セクタートランジションプランガイダンス」が公表され、今後はこれに基づき、産業別ロードマップを作成する動きが起きています。
また、イギリスに限らず欧州ではトランジション・ファイナンスに対する関心は高まっており、2025年11月上旬にはICMA(国際資本市場協会)から「クライメート・トランジション・ボンド・ガイドライン」が公表されました。この中で初めて、トランジションボンドがグリーンボンドとは異なる独自のラベルとして認識されました。従来の「グリーンボンド原則」の定義だけでは当てはまらないものも、ファイナンスしていくことが必要であると、サステナブルファイナンスの基準作りにおいて権威あるICMAが正面から認めたのは、欧州を含めてトランジション・ファイナンスという考え方が認められたことを象徴的に示す動きだったと思います。

高田氏インタビュー風景

「トランジション・ファイナンス」や「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」は新しく出てきた概念であり、なおかつ日本が世界をリードできそうな分野だと感じています。高田氏が所属されているGX推進機構は、どのような役割を担われるのでしょうか?

高田氏:はい、政府の省庁や民間とも連携しながら、GXに関する政策議論を進めています。
当機構では、民間プロジェクトに対する金融支援の提供や排出量取引制度の運営、「GXハブ」としての幅広いGX政策の推進など、さまざまな機能を担っています。
我々のようにGXに特化した政府組織は、世界的に見てもかなり珍しいようで、非常に斬新なアプローチであると海外の有識者から評価をいただいています。

重要なのは「競争」と「協調」|サステナブルファイナンスに関する金融機関同士の連携

サステナブルファイナンスを推進するためには、金融機関同士の国際的な連携も重要だと思いますが、いかがでしょうか。

高田氏:サステナブルファイナンスや気候変動対策は世界的な課題である以上、国境を超えるファイナンスの連携は非常に重要です。
2025年、国際的な連携枠組みであるNZBA(ネット・ゼロ・バンキング・アライアンス)が活動を休止してしまったことが、サステナブルファイナンスに対する逆風と捉えられることもありました。しかし、脱退した金融機関は「アライアンスに加盟するかは別として、取り組み自体はしっかり進めていく」と述べています。
アライアンスに加盟することは、それ自体が目的なのではなく、あくまでカーボンニュートラルを実現するという目的を達成するための手段にすぎません。目的に応じてアライアンスを活用し、あるいは独自で活動したり、より個別的な連携を図ったりするなど、多様かつ柔軟な形があって良いと思います。

高田氏インタビュー風景

GXというひとつの目標に向かって金融機関が連携していく絵姿は理想の形だと思いますが、他方で金融機関各社は互いに競争すべきライバル企業同士でもあると思います。相互に連携することについて、現実には難しい面もあるのではないでしょうか。アライアンスの内部でも、足並みが揃わず取り組みが進展しないといったことはないのでしょうか

高田氏:おっしゃるとおり、各金融機関は競争関係にあるため、一緒に取り組める部分とそうでない部分それぞれがあります。ただ、よく「競争領域」と「協調領域」と言われますが、競争すべきところは競争しつつ、協調すべきところは協調し、まずはマーケット全体を拡大していくことが重要です。その中でまた独自の金融機関としても取り組みを行っていく、そういったことが望まれているのだと思います。
特に、サステナビリティや気候変動は人類全体の共通の課題ですから、そこに向けて協力する意義は十分にあるでしょう。

GXに係るコストは誰が負担すべきか?

サステナブルファイナンスの取り組みを国際的にさらに拡充していくためには、プロジェクトの経済性や競争性を確保することが必要であるとの指摘があります。民間企業であれば「利益が出なければプロジェクトを進められない」というのは当然のことと思います。グリーンプロジェクトを商業的に成り立つものにしていくための環境作りや政策的な支援が必要になってくると思いますが、具体的な方策について教えてください

高田氏:グリーンな製品やサービスを提供することは重要ですが、それがマーケットで売れなければビジネスとして成立せず、そういった製品・サービスを作り出そうというインセンティブも生まれません。
したがって、供給側だけでなく需要する側も含め、いかにしてGXマーケットを作っていくかということが非常に重要です。
そうした観点から、政府やGX推進機構もさまざまな取り組みを行っています。
例えば、現在、水素を活用した様々なプロジェクトが立ち上がりつつありますが、現段階では通常の燃料よりもコストが高いため、政府はその価格差を埋める補助金の助成を実施しています。
また、「成長志向型カーボンプライシング構想」の下、2026年度より排出量取引制度が導入されます。この制度により、炭素の排出量が多いモノやサービスについては、コストが高くなります。対照的に、排出量が少ないグリーンなモノ・サービスは、市場における競争力が相対的に上がっていくでしょう。
さらに、社会構造の変革や、最終的には消費者の行動変容も促していく必要があります。GX推進機構でも最近レポートを公表しましたが、グリーン製品に対して消費者がより高い対価を払う用意があるのか、どのような要素があれば払いたいというインセンティブが生まれるのか、そうした調査も進めています。

消費者の行動変容を促していく必要があるとのことでしたが、いち消費者としては、環境にやさしい製品、サービスであっても、価格が高ければ、選びにくい、購入しにくいと感じるのではないでしょうか。昨今の物価高の状況の下ではなおさらです。他方、その価格差を政府、行政が負担する、たとえば補助金で埋めるとしても、結局は税金を充てることになりますから、様々な意見がありそうです。「GXに係るコストを最終的に誰が負担すべきか」という問題は、非常に難しい問題だと思いますが、どのように考えるべきでしょうか。

高田氏:短期的にはグリーン製品・サービスを作るにはコストがかかりますから、そのコストは誰かが負担しなければなりません。国が補助金を出すとしても、原資は税金である以上、最終的には国民が負担することになります。
一方で「グリーンである」ということに付加価値を見出せる環境が広がれば、喜んで対価を払う消費者も増えてくるのではないでしょうか。
例えば、欧州のある航空会社では、環境負荷の少ない燃料を使ったフライトでは少し高い料金を設定しています。その代わりに、利用するとマイレージが付与されたり、予約が柔軟にできたりといった付加価値を付けて、受け入れられやすくしています。最初はそういった工夫をしていく必要があると思います。
また、先ほど、誰かがコストを負担しなければならないと申し上げましたが、短期的には負担であっても、長期的にはそれによってグリーン市場が立ち上がり、グリーン産業が栄えていく。これがGXの目指すところです。GXは2050年のカーボンニュートラル達成と、産業競争力の強化、経済成長を同時に達成することです。長期的にこれが実現できれば、より強い競争力や高い経済成長として、国民に便益が返ってくるわけです。
そうした認識を広めていくことによって、国民全体として取り組んでいく機運を高めることが大事だろうと思います。

今後の展望

最後になりますが、今後、サステナブルファイナンスの分野はどのような方向に進化していくとお考えでしょうか?

高田氏:冒頭にも申し上げましたが、サステナブルファイナンスを推進していくという世界的な流れ自体は止まらないと思います。ただ、今後は「サステナブルファイナンス」を単なる「概念」として捉えていた段階から、世界中の国々が「実践」のフェーズに移行していくことになるでしょう。そうなると、地域ごとの違いや直面する課題がより浮き彫りになっていくと思います。共通の枠組みを大切にしながらも、地域ごとのアプローチが今まで以上に問われ、それぞれの局面で進化していくのではないかと考えています。

高田氏インタビュー風景

最近のニュースなどを見ると、脱炭素やサステナブルファイナンスの取り組みが後退しているのではないかと感じることもありましたが、今後長期的に必要な取り組みであること、実際には減速などしておらず、国際的な取り組みが着実に進んでいるうことが分かりました。
本日はどうもありがとうございました。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。
高田氏はFin City Tokyoが開催した2025年10月のイベント「東京・サステナブル・ファイナンス・フォーラム」に登壇いただきました。当日の議題についてはYouTubeで公開しております。こちらもぜひご覧ください。
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