インタビュー:「山頂の先は360度」——人口減少時代に見出だす、東京の可能性
西武信用金庫理事長の髙橋一朗氏に、信金の役割と人口減少時代で金融都市・東京が目指すべき姿を聞きました。

信用金庫の活動と役割を教えてください。信金のルーツは産業革命時のイギリスにあるともされていますが、どのような歩みを経て現在の姿になったのですか?
信用金庫は「協同組合」であり、利益を追求する株式会社である銀行とは組織形態が本質的に異なります。株式会社では経済的合理性が重視されますが、信用金庫は地域の利用者・組合員の相互扶助を目的とした協同組織です。
協同組合運動のルーツをたどると、ご指摘の通りイギリスの産業革命にたどり着きます。当時、イギリスではロッチデール原則、ドイツではライファイゼンなど、各国で、ほぼ同時期に独自に協同組合運動が起きました。情報通信が発達していなかった時代、綿密な連絡を取り合うことなく各地で同じような動きが生まれたようです。大資本に有利な資本主義が浸透する中で、労働者や小規模な事業者は取りこぼされまいとして、「相互扶助」の理念の元、地域で自発的に集まり、力を合わせた、それが協同組合の原点です。
日本でも同様の流れが明治維新の前後に起きました。二宮尊徳ら先人たちによって「協同」の考え方が持ち込まれました。地域で商売をする皆さんが道具を共有したり、人手を融通し合った「産業協同組合」が私たちの源流です。利益を目的に集まったのではなく、無償で協力し、地域を良くしようとしたことに「協同」の原点があるからこそ、当金庫では、その精神を受け継ぎ、お客様からビジネスマッチングの手数料をいただくことはありません。
「預金高や融資量の数字を追い求める経営をやめる」と宣言されています。何を事業の目標・指標に掲げているのですか?
私が最も大切にしている指標は「お取引先の何割が黒字経営を実現しているか」です。中小企業の65%が赤字企業といわれる中、当金庫のお客様は68.8%が黒字経営を維持されています。この数字こそが、私たちの活動の成果を示すものだと確信しています。350人の外回り担当者それぞれ「自分が担当する企業のうち何社が黒字になったか、何社の売上が増えたか」が個人の業績評価となる仕組みを3年前に導入しました。お客様のために働いたことが評価される、座標軸をお客様の側に置くことが、一般的な金融機関との決定的な違いだと思っています。お客様が黒字で、遅れなく返済してくださることで、不良債権は国内で最も少ない水準となり、史上最高益を更新することができています。お客様の経営状態を良くすることが、信用金庫の「協同組合」としての本来の役割だと考えています。
現在、特に力を入れている分野や取組みを教えてください。
3つの柱があり、1つ目は、先ほどの中小企業の黒字化支援事業です。約30年前、「集金して融資する」従来の金融モデルを見直し、お客様の商品やサービスを職員自らが売り歩くという取組みを始めました。これまで幾多のビジネスマッチングや27大学との産学連携事業などを展開してきました。様々な課題解決や補助金の申請支援に際しては、多忙な中小企業経営者のため、専門家を派遣していますが、その費用は私たちが負担しています。時々、外部の方から、受益者である中小企業が費用を負担すべきとのご意見をいただきますが、お客様の経営を改善することが、私たちの目的であり、結果として信用リスクの軽減につながるのであれば、真の受益者は私たちであり、その費用も手間も惜しむことはありません。
2つ目は、ベンチャー投資です。25年前、信用金庫としては、先駆けのベンチャーキャピタルを設立しました。これまで152社に投資し、うち20社が上場を果たしています。地域課題解決型ビジネスモデルに重点的に投資してきた結果、利益が計上できています。
3つ目は、NPOやソーシャルビジネスへの支援です。人口減少が進む中、税収減により、行政サービスが後退すると、それを補う福祉や地域活性化の担い手が必要になります。当金庫は23年前、日本の金融としては、かなり早い頃から、融資や助成金などNPO支援を開始、現在では民間金融機関の中でNPOとの取引が最も多い金融機関になっているのではないかと自負しています。地域のために無償で集まり連携するNPOの姿は、協同組合の精神に通じるところがあります。
金融都市・東京の今後をどう見ていますか?
21世紀の人口減少社会の中で、これまでのように地方を吸収して「成長していく感」を東京の魅力として追いかける時代は終わったと思っています。東京が元来、持っているものを大切にしながら、地方のハブとして、地方の活性化にも貢献する東京に大きな可能性を感じています。講演でもよくお話しするのですが、人口減少社会を受け入れ、奪い合わない新しい形を再設計することで、まったく違う景色が見えてくると思っています。
私はよく「山は上から見ると円錐形だ」という話をします。人口増加社会は、誰が頂点に一番早くたどり着くかという時間差の勝負でした。頂点は一つですから、人を蹴落としてでも駆け上がり、成長するしかなかった。ところが人口減少という下り坂になった今、下りる道は無限にあり、360度どこに向かってもよいのです。時間差の力の勝負から多様性の時代へ変わる21世紀は、付加価値の高いものを少量作り、コアな顧客に届け、機動力を生かして柔軟に方向転換できる中小企業の時代だと考えています。20世紀のような相手を蹴落とす競争ではなく、協力や協同をキーワードに、中小企業、行政、商工団体、NPO、ソーシャルインパクトに取り組む若い世代、そして金融機関が一堂に集い、連携して新たな価値を創造していけば、人口増加に頼らない力強い循環が生まれてくると確信しています。そうした強みを持つ中小企業が数多く集積しているのが東京であり、それは東京にとって、大きなアドバンテージであり、東京の可能性は大きく広がると思っています。