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インタビュー:三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG) 石川知弘氏

28 AUGUST 2025インタビュー

トランジション・ファイナンス 「アジア型」東京が牽引

トランジション・ファイナンス 「アジア型」東京が牽引
実社会の脱炭素に向けた歩みを資金面で支援するトランジション・ファイナンスに注目が集まっています。この分野の第一人者で、各国の動向にも詳しいMUFG Chief Regulatory Engagement Officerの石川知弘氏が金融都市・東京が果たすべき役割を語ります。

トランジション・ファイナンスについて教えてください。

 いくつかの切り口があると思います。地球温暖化対策など環境課題の解決に直ちに貢献する事業・サービスへのファイナンスがグリーン・ファイナンスですが、グリーンな取り組みへの投資だけでなく、「将来グリーンになるもの」や「グリーンにするための取り組み」にファイナンスしていくことも大事だというのがトランジション・ファイナンスの考え方です。グリーンを否定するわけではなく、グリーンを補完する形でトランジションの各種取り組みを支援することで、経済全体の脱炭素を促そうという考え方。これが一つ目の切り口です。

 もう一つは、あらゆる企業、セクターが2050年以降を見据えた気候変動対策、脱炭素の戦略を立てていますが、これらのトランジション戦略をファイナンス面で支援するという考え方です。決して新しいコンセプトではなくて、買収に対してアクイジション・ファイナンスがあるように、事業会社が策定するトランジション戦略に対してトランジション・ファイナンスを行うということです。事業会社と密にエンゲージし、資金ニーズに応えるという点で、金融機関として私共がこれまで行ってきたことと変わりはありません。

 このように、トランジション・ファイナンスに関しては「補完」の役割と「戦略」支援、両方の視点から捉えることが大事だと思います。

2050年カーボンニュートラル目標達成に向けて、現在はちょうど中間地点であるということが、トランジション・ファイナンスが今注目される理由でしょうか。

 私共は以前からトランジション・ファイナンスの重要性を訴えてきました。2021年に英グラスゴーで開催されたCOP26で、マーク・カーニー国連気候変動問題担当特使(当時、現カナダ首相)が「金融がネットゼロを牽引し、民間金融機関もこれに貢献する」と高らかに宣言しました。私もその場にいて「このように新しいモメンタムが作られていくのだな」と強く感じました。その後、私共はネットゼロに向けたグラスゴー金融連合(GFANZ)やネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)に深く関与し、マーク個人とも連携しながら歩みを進めてきました。

 昨年は欧州議会選挙や米大統領選挙など、環境政策に影響を与える政治の動きがありました。ウクライナ戦争で、エネルギー安全保障を巡る議論も高まっています。ネットゼロを達成することのみを優先するのではなく、産業競争力を維持・発展させながら、経済を成長させながら、雇用も守りながら、コミュニティや自然も守りながら、と現実には様々な「条件」を満たしながら脱炭素を実現しなければなりません。このように様々な観点に配慮しつつトランジションを進めることの重要性について認識を、国内外の多くの関係者が共有するようになったということだと思います。

MUFGが行っているトランジション・ファイナンスの具体的な取り組みを教えてください。

 資金需要と資金供給の両方の観点で考えることが大切です。

 需要の面では、お客様の声にしっかり耳と傾け、対話を通じて資金ニーズがどこにどの程度あるのか把握することがスタートです。正確にニーズを掴むには、我々も世界・地域のトレンドを理解し、「世界観」を持つ必要があります。そうした問題意識から、「MUFGトランジション白書」というレポートをお客様と共に毎年、日・英語で発刊し、このレポートを携えて各国政府を訪問し意見交換を続けてきました。このような取組を通じて、「どこにニーズがあるのか」「どこに課題があるのか」「その解決に向けて私共が貢献できることは何なのか」といったことについて我々なりの問題の深掘りと世界への発信を続けています。

 供給面では、従来のローンだけでなく、リスクが少し高い案件であればブレンデッド・ファイナンスとして公的資金と民間資金を組み合わせてファイナンスする、あるいはサステナビリティ・リンクド・ローンのような何らかの目標設定と連動した貸し出しをするといった、いろいろなプロダクトがあります。商品ラインアップを充実させることで、様々な資金需要にお応えできるようにしています。お客様の預金をお預かりして貸出をする「銀行」という立場であるので、適切なリスク・リターンを確保するため、リスク管理の高度化、組織体制強化にも努めています。

トランジション・ファイナンスの普及啓発にはどう取り組んでいますか。

 例えば、「MUFGトランジション白書」は、いわゆるハード・トゥ・アベイトの業種のお客様と共に課題を共有しながら制作しました。欧州ではタクソノミーを通じた開示、米国ではバイデン前政権のインフレ削減法に基づく補助金などの制度面の手当てがありました。日本ではグリーン・トランスフォーメーション(GX)戦略があります。白書においては、具体的に日本が何をやっているのか、欧米とどこが違うのか、といったことにも触れながら、その中で我々のお客様がどのような課題認識を持っているのか、ということをレポートにまとめたものです。白書は「日本なりのトランジション」を広く訴求すると共に、日本がいま直面している課題についても伝えるものです。

 これを持って世界の幅広いステークホルダーとの面談を通じて、先進国、途上国問わず、各国が共通して持っている課題が見えてきました。そして、「これは皆で取り組むべき問題ではないか?」というアドボカシー活動をしてきました。当初は「トランジション・ファイナンスはグリーン・ファイナンスに劣後しているのでは」「グリーンウォッシュなんじゃないか」といったネガティブな反応が聞かれましたが、ここ1、2年で大きく変わりました。トランジション・ファイナンスが重要でないと考える人はいなくなり、市民権を得たと感じます。

日本あるいは金融都市・東京が果たすべき役割は何ですか。

 ロンドンやニューヨーク、東京などのファイナンシャル・シティの重要な役割はコミュニティ、エコシステムの形成だと思います。人が集まりネットワークが作られることで、情報と資金が集まり、需要と供給のマーケットが作られるからです。
 ロンドンは、グローバルなスタンダードにつながるルールメイキングの能力に秀でていると感じます。その典型が先ほど申し上げたGFANZやNZBAであり、英国政府や英中銀、英財務省の支援の下、世界700社超の大手金融機関がネットゼロにコミットしグローバルなモメンタムが作られました。ロンドンに行けばネットゼロの情報も資金もあるという、まさにエコシステムを作ることに成功しました。

 日本や東京が同じことをして対抗する必要はないと思っています。アジアのトランジション・ファイナンスは必ずしも欧米と同じものではありません。今後もエネルギー需要が伸び続けるアジアでは、短い時間軸のなかでグリーン化が見えている訳ではなく、エネル
ギー分野では排出も当面続いてしまう可能性が高いのです。現実的に、アジア、特にASEANでは産業化に伴うエネルギー需要に応えるため化石燃料分野への投資が今後も必要です。そのためには最先端の技術とこれを支援するファイナンスが必要です。欧州が正しい、アジアが間違っている、ということではなく、それぞれの地域事情によって求められるトランジション・ファイナンスのスコープも異なるということです。

 アジア固有の需要に対し資金が適切に供給されるマーケットを作ることができるのが、東京です。このアジア型のトランジション・ファイナンスが大事なのだ、ということを世界に発信していくことが東京に求められていることだと思います。アジアの地域内人口は世界の半数超を占めます。アジアの問題を解決できなければ、グローバルな問題は絶対に解決できません。また、東京が日本の課題だけを語っていても、世界を牽引することはできないでしょう。アジアのソリューションをグローバルなステージに高める積極的な取り組みが、東京や日本に求められています。当社としても、私個人としてもそのお手伝いをしていきたいと考えています。

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