インタビュー:KBRA
4 SEPTEMBER 2025インタビュー
モンローシェリダン氏による洞察:東京を拠点とするKBRAの日本戦略
総合信用格付け会社のKroll Bond Rating Agency(KBRA)は、グローバル展開における重要なマイルストーンとして、2025年1月、東京に新たなオフィスを開設しました。アジア太平洋地域初となる拠点に東京を選んだ背景と、今後の展望について同社Head of Business Developmentのモンローシェリダン氏に話を伺いました。(Please see the English version here (external link).)
インタビュイー:モンローシェリダン 美樹 氏(Head of Business Development, KBRA)
KBRAはどのようなミッションを掲げている会社でしょうか?
KBRAは、2008年のリーマン・ブラザーズの破綻を受けて設立された信用格付機関で、信頼性の高い格付を提供し、信用格付の信頼回復を目指すことを使命としています。現在では、全世界で8万件を超える格付を実施しており、総額では3兆ドルを超えます。
従来の格付機関がサイロ化された手法を取るのに対し、KBRAは柔軟性を重視しており、ストラクチャードファイナンスのアナリストとコーポレートのアナリストが協働するなど、セクター横断的なチーム体制を構築しています。この体制により、新しく複雑な商品にも迅速に対応することが可能です。
他の格付会社との違いや強みはどのような点にありますか?
日本市場には既に、いわゆる「ビッグスリー」と呼ばれる格付機関と2社の国内格付機関が存在します。KBRAの強みは、プライベートクレジット、ストラクチャードファイナンス、および複雑な金融商品における深い専門性にあります。
私たちはファンドファイナンス取引に対して初期から格付を行ってきており、その経験が業界での評価につながっています。特にプライベートクレジット分野におけるファンド格付は、現在最も需要の高いサービスの一つです。
KBRAの日本進出の経緯について教えてください。
東京オフィスは、KBRAにとってアジア太平洋地域初の拠点となります。本社を構えるニューヨークをはじめ、米国内ではペンシルベニア、メリーランド、シカゴに拠点を構え、さらに2017年にダブリン、2019年にはロンドンと、着実にグローバル展開を推進してまいりました。
アジア進出にあたっては、日本の投資家の皆様からひときわ強い関心と期待が寄せられ、中でも拡大するプライベートクレジット市場において格付ニーズが高まる中で、日本はアジア太平洋地域の拠点として、自然かつ有望な選択肢となりました。
日本でのチーム構成や人材採用の方針について教えてください。
日本での格付業務を本格的に行うために、アナリストを採用しています。金融庁も、日本の発行体に対する格付を国内で実施することを重要視しており、それに沿った体制構築を行っています。
モンローさんご自身のキャリアの中で、日本に戻ったきっかけは何だったのでしょうか?
私はこれまで、欧州および米国の証券会社において、外国債券のストラクチャード商品やセールス業務に長年携わり、ニューヨークではジャパンデスクも担当していました。
その後、東京に戻り、ジェフリーズ証券会社にて債券チームの拡充を進めるなかで、KBRAと出会いました。当時、同社はまだ日本市場への進出前でしたが、複雑かつ革新的なプロダクトに対しても、迅速かつ丁寧に対応する姿勢に強い印象を受けました。
こうした海外での出会いや経験を通じて培ってきた国際的な視点や知見を、日本市場においても活かせるのではないかと感じるようになりました。
マーケットとしての日本の特徴、アジア諸国との比較について教えてください。
日本の投資家は、非常に慎重で綿密なリスク分析を行うことで知られており、高い責任感と優れた社内リサーチ能力を兼ね備えています。一方で、規制上の要請から、信用格付機関の果たす役割も重要性を増しています。
アジア太平洋地域への展開に際しては、香港やシンガポールといった他の候補地も検討しましたが、最終的に日本を選択しました。
確立された規制環境への信頼性と安定性に加え、KBRAのメンバーの多くが日本文化に親和性を持っていたことも、選定理由のひとつとなりました。
進出におけるハードルはどのようなものがあり、それをどう乗り越えたのでしょうか?
日本市場への参入にあたって、最大の課題となったは、規制対応と言語の壁でした。
日本では、韓国や台湾とは異なり、認可取得にあたって現地での物理的なプレゼンス(オフィス設置)が必須条件となるため、初期段階からインフラ整備への先行投資が求められました。とはいえ、日本で認可を取得することで、アジア全体における当社の信頼性と存在感が一層強化されると考えています。
言語面においては、多くの投資家の方々は英語でのコミュニケーションにも柔軟に応じてくださいますが、日々の業務や継続的な連携には日本語での対応が不可欠です。
このためKBRAでは、主要なレポートを日本語で発行するとともに、現在は日本語対応のウェブサイトの開設にも取り組んでおり、より深いローカライズを進めています。
FinCity. Tokyoの支援においてどのような点が役に立ったと感じていますか?
FinCity.Tokyo様には、日本進出を検討し始めた初期段階から大きなご支援を頂きました。具体的には、潜在的な顧客や業界関係者のご紹介に加え、関連カンファレンスへの参加支援などを通じて、当社の立ち上げを大きく後押し頂きました。また、少人数での立ち上げ体制において、金融庁対応人材の確保に向けた適切な人材紹介会社をご紹介頂けたことも、当社にとって非常に心強いご支援となりました。さらに、他の金融機関が多く集まるエリアのオフィス物件をご案内いただけたことも、ネットワーキングの観点から非常に有益でした。
支援側により期待することはありますか?
はい。たとえば、私たちは補助金制度の存在について、FinCity.Tokyo様を通じて初めて知りました。初期投資が大きい企業にとっては、こうした制度を早い段階で把握しておくことで、より的確な意思決定が可能になります。
とはいえ、補助金の申請プロセスは非常に書類作成の負担が大きく、少人数体制で立ち上げを行う企業にとっては現実的にハードルが高いのが実情です。今後は、そうした実務面でのより実践的なサポートも頂けると、さらに心強いと感じます。
また、日本進出を検討している海外企業にとっては、必要書類、手続きの流れ、スケジュール感、コスト、必要な人材要件などを段階的に整理したガイドがあれば、非常に助かると思います。
今後、国際金融都市東京で、KBRAはどのように成長していきたいと考えていますか?
KBRAは数年前より、米国、欧州、そしてアジアを含むグローバル市場において、顧客に幅広くサービスを提供する体制を戦略的に構築してきました。グローバル投資家からの信頼を積み重ねることで、他の発行体にとってもKBRAの格付を選択しやすい環境が生まれると私たちは考えています。
日本市場においては、格付機関の数が限られ、評価手法も固定的になりがちな現状があります。そうした中でKBRAは、柔軟で新しい分析視点を提示していきたいと考えています。私たちの格付を通じて、日本の投資家が従来アクセスしづらかった欧米の金融商品や、評価の難しい複雑かつ高度なストラクチャード商品に触れられる機会を広げていくことを目指しています。今後、金融業界ではこれまで以上に複雑かつ革新的な商品が登場することが予想されます。KBRAの使命は、それらに柔軟に対応しつつ、高い基準を維持し、正確なリスク評価を行うことによって、東京の国際金融ハブとしての成長を支援することだと信じています。
※2025年8月現在、KBRA Japanは金融商品取引法に基づく信用格付業者としての登録申請手続き中です。