東京が描くトランジション・ファイナンスの青写真:アジアの脱炭素化をけん引する日本
世界で、産業成長を犠牲にせず脱炭素化をどう進めるかが議論される中、東京は静かに、しかし着実に、トランジション・ファイナンスのハブとしての地位を築きつつある。
制作: ロイター・プラス
日本政府は2024年2月に世界初のソブリン・トランジションボンドを発行して以来、GX経済移行債の枠組みの下で約250億米ドルを調達してきた。これは世界のトランジションボンド発行額の約62%を占め、市場において他国を圧倒する規模だ。その発行を支えるのが「GX2040ビジョン」であり、これは今後10年間で日本のグリーン・トランスフォーメーションに1兆米ドルの官民資金を呼び込むという野心的な計画である。
「トランジションボンドは、東京における極めて重要なプラットフォーム(基盤)の一つであり、私たちはこれまで数々の成功事例を積み重ねてきました」と語るのは、国際金融都市としての東京の発展を推進するFinCity.Tokyoの専務理事、森田宗男氏である。
こうした成果の背景には、他国とは一線を画す日本独自の枠組みがあると森田氏は強調する。それは、脱炭素化が困難な産業を対象に、企業単独の取り組みとしてではなく、公的機関も加わって整備された分野別の脱炭素化ロードマップである。
「これは企業が自主的に策定したロードマップではありません。(中略)そのため、トランジション・ファイナンスが気候変動対策を損なうのではないかという懸念にも応えられるはずです」と森田氏は説明する。「すでに東京には、こうした枠組みが定着しています。」

FinCity.Tokyo 専務理事の森田宗男
実は、こうした信頼性の裏付けは重要である。一部の海外市場では、トランジション・ファイナンスに対する否定的な見方がなお根強く、高排出産業を延命させるのではないかと懸念する声があるためだ。しかし、潮目は日本に有利な方向へ変わりつつあるのかもしれない。国際資本市場協会(ICMA)が2025年11月に公表した「クライメート・トランジション・ボンド・ガイドライン」は、東京が長年にわたり磨き上げてきたアプローチと同じ方向性を示している。
「これを、国際的に認められる枠組みに押し上げるべきです」と森田氏は提言する。「私たちは、日本のアプローチを国際的に相互運用可能なものにしていこうと努めています。その意味で、ICMAのトランジションボンドに関するガイドラインは大きな後押しとなるでしょう。」
こうした国際化の取り組みの一つが、ロンドンとの継続的な連携である。シティ・オブ・ロンドンのトランジション・ファイナンス・カウンシルと共同開催する「トランジション・ファイナンス・フォーラム」に加え、日英両政府、東京とロンドンの証券取引所、学識者、産業界の代表者などが参加する実務者レベルの「日英トランジション計画ダイアログ」も実施されている。このほか、フランクフルトおよびルクセンブルクとも覚書を締結している。
もう一つ重要なのは、アジアでの東京の役割を広げ、日本の重工業から東南アジアの発電に至るまで、アジア各地で進められつつある信頼性の高い脱炭素化への道筋に世界の資本を結び付けることである。
「気候変動は世界的な課題です。アジアの新興国には、排出量が多い国が少なくありません。ブラウンとグリーンで二分するタクソノミーでは、それに対応できないでしょう。だからこそ、トランジション・ファイナンスという考え方が極めて重要なのです」と森田氏は指摘する。
成熟へ向かう市場
トランジション・ファイナンス商品の組成に携わるセルサイドの実務家も、同様の見方を示す。みずほ証券株式会社、サステナビリティ推進部の部長である末吉光太郎氏は、問題の核心を端的にこう語る。「今、問われているのは、脱炭素化するかどうかではなく、経済的に持続可能な形でどう実現するかです。私たちにとって、トランジションは妥協ではありません。サステナビリティと経済成長を同時に実現するための道筋なのです。」
製造業を基盤とし、人口動態上の課題を抱え、構造的にエネルギー輸入に依存する日本経済にとって、この捉え方は不可欠だと末吉氏は主張する。
みずほは、電力・ガス、鉄鋼、海運、重工業、化学の各分野でトランジション案件の組成を手がけてきた。末吉氏は、ICMAのガイドラインを大きな転機と捉えている。同氏によれば、クライメート・トランジション・ファイナンス・ハンドブックは、信頼できるトランジション・ファイナンスに必要な要素、明確な目標、戦略、時間軸、実現可能性を示しており、ICMAのガイドラインは、そうした要素を資金調達上の要件へと落とし込む役割を果たしている。
「両面が整ったことで、(中略)今後はより具体的で、規模を拡大できるトランジション・ファイナンスが見られるようになるでしょう」と末吉氏は付け加える。

みずほ証券株式会社 サステナビリティ推進部長 末吉光太郎氏
末吉氏によると、次の成長段階に進む鍵は、より明確な情報開示、とりわけ「削減貢献量」の開示にある。削減貢献量とは、企業の製品やサービスが、経済の他の領域で温室効果ガス削減にどのくらい貢献したかを示す。みずほは昨年、「〈みずほ〉削減貢献量フォーカスレポート」「〈みずほ〉プレスリリース」を公表したほか、日本の重工業分野の顧客企業とともにCOPでの議論に参加し、その重要性を訴えてきた。
「削減貢献量が重要なのは、企業自身のカーボンフットプリントの削減だけでなく、社会全体の脱炭素化にどれだけ実質的に貢献しているかを捉えられるからです」と末吉氏は語る。
この違いが最も重要になるのは、水素、省エネルギー、低炭素型の産業ソリューションなど、トランジションボンドによる資金供給がより一層期待される新技術分野である。
末吉氏は、市場の性格も変わりつつあると指摘する。「市場は成熟期を迎えつつあります。現在のサステナブルボンドは、発行体と投資家が戦略的な対話を行うための場を生み出すものになっています。」
同氏は、こうした見方が、従来型債券よりも調達コストが低くなる「グリーニアム」を重視する見方に取って代わりつつあると考えている。機関投資家について、同氏はこう語る。「サステナビリティへの取り組み姿勢は、かつてないほど強まっています。投資家たちは、投資を通してインパクトを生み出したいと本気で考えているのです。」
国境を越えた資本の展望
こうした構図の中で、世界の投資家がどのような役割を果たすのかは、BofA証券株式会社の元取締役副社長、林礼子氏にとって重要な論点だ。林氏は30年以上にわたり資本市場に携わり、2014年には日本で最初に発行されたグリーンボンドの引受業務にも従事したベテランで、こうした動向を真に国際的な視点から捉えている。
複数の政府の作業部会で委員を務め、現在はICMAのシニアアドバイザーでもある林氏はこう語る。
「私がグリーンボンドの引受業務を始めた頃、日本の多くの市場関係者は、それが何であるのかさえ知りませんでした。現在では、当時とは比べものにならないほど認識が高まっています。」
「トランジション・ファイナンスは、日本が世界市場を主導できる分野の一つです」と林氏は述べる。「アジア諸国が欧州の取り組みをそのまま導入することは不可能です。その点で、日本のアプローチは参考にすべき優れたモデルです。非常に包摂性が高い点も特徴です。」
実際に、そういったモデルとして、すでに各国に広がり始めている。韓国は、日本のモデルを明確に踏襲した独自のトランジション・ファイナンスの枠組みを構築し、同国の文化発信にならった「K-GX」という名称を掲げている。また、英国政府は日本のガイドラインを詳細に分析している。今年初めにロンドンで開催された「東京-ロンドン 金融セミナー2026」では、日英両国の政府関係者と主要投資家が一堂に会し、双方のアプローチを実務レベルでどう擦り合わせるかについて議論した。

BofA証券株式会社 元取締役副社長 林礼子氏
林氏はさらに、まだ広く注目されてはいないものの、重要性が高まりつつある新たな領域として、レジリエンス・ファイナンスを挙げる。BofA証券株式会社は、昨秋発行された東京都の「TOKYOレジリエンスボンド」で主幹事を務めた。これは、日本の地方公共団体による初の同種債の発行であり、クライメート・ボンド・レジリエンス・タクソノミー(CBRT)の基準に基づく国際認証を取得し、ICMAのソーシャルボンド原則および金融庁のソーシャルボンドガイドラインにも準拠している。
「この債券は、海外投資家、とりわけ欧州市場から非常に高い評価を得ました。レジリエンスは日々の暮らしに関わるため、誰にとっても極めて重要なテーマです」と林氏は語る。
クライメート・ボンド・イニシアチブが気候レジリエンスをトランジションと正式に結び付け、物理的気候リスクも世界的な重要課題として浮上する中、この分野は今後の成長が見込まれる。みずほ証券の末吉氏は、東京の実体経済そのものが、その拡大に向けた格好の実証の場になると付け加える。
「東京は、世界的なトランジション・ファイナンスのハブとして非常に大きな可能性を秘めています。日本最大のエネルギー需要地である東京都は、すでにレジリエンスボンドを通じてリーダーシップを発揮し、サステナブル・ファイナンスの対象を気候変動の緩和だけでなく適応にまで広げています」と末吉氏は語る。「こうした取り組みを拡大できれば、東京は日本国内だけでなく、アジアの各都市のモデルとしても先導的な役割を果たせるでしょう。」
現実的な足掛かり
5月には超長期国債の利回りが急上昇し、投資家マインドの冷え込みによって一部の海外勢が様子見を強めるといったマクロ面の逆風はあるものの、トランジション・ファイナンスを取り巻く構造的な優位性は揺らいでいない。2026年4月には、日本の排出量取引制度(GX-ETS)が本格稼働した。これにより、これまで日本の情報開示環境の弱点であった信頼性の高い排出量データを、発行体と投資家へ提供できるようになることが将来的に期待されている。末吉氏は、新制度が、とりわけ高排出セクターの発行体によるKPI開示の透明性向上を促す「触媒」となり、日本のコンプライアンス市場におけるカーボンクレジット需要も押し上げるとみている。
一方、林氏は、新制度の影響を見極めるには「時期尚早」としつつ、政策当局に対し、枠組みの包摂性を維持するよう求める。「厳格にしすぎると、関係者、特に発行体の参加意欲を削ぐことになってしまいます。」
森田氏は、東京が独自の立場を生かし、アジア地域における固有の役割を確立できると考えている。「アジアで唯一のG7加盟国である日本は、高度な概念や基準に通じている一方で、アジア各国の実情も理解しています。だからこそ、両者をつなぐ橋渡し役になれるのです。」
Produced for FinCity.Tokyo by Reuters Plus